日本の地域社会は、グローバル化や少子高齢化といった波の中で大きく変容し、人々のくらしは大きな影響を受けている。また、地方分権が重要な政治課題として注目され、機関委任事務の廃止をはじめとする自治体への権限委譲や税財源の委譲が行われてきた。そして、地方分権改革は、そうした政府間関係の変化に付随して、行政のみならず政治・社会とも深く関わっている。政治の面で見れば、自己決定・自己責任の自治体政治を確立する必要から、自治体議員の資質や国会議員との関係変化、自治体合併に伴う地域政治の構造変化など、さまざまな変化が見られる。また、自治体行政をめぐる状況変化は、「公共を民が担う」という形で、住民−行政関係の変化をもたらし、さまざまな議論を呼び起こしている。地域社会において、さまざまな状況変化が生まれ、住民生活に影響が及んできているのである。
そうした中、自治体現場において、しばしば語られることとなったのが、住民と行政の「協働」である。分権改革以降、自治体で積極的に制定が進められるようになった自治基本条例にもこの「協働」が定義される例が多く見られ、多くの自治体で「協働推進課」や「市民協働課」といった部署の新設や名称変更が相次いでいる。その意味では、住民と行政の「協働」は、地方分権時代を表すキーワードになっている感があるといえよう。
しかし、こうした「協働」ブームに水を差す批判的見解が突きつけられているのも事実であり、研究者のみならず、市民・住民の側からも「協働」批判が呈される場合が少なくない。しかし、その一方で、地域社会の変容やコミュニティの変化が、「協働」を求めているのも事実であろう。その意味では、分権時代の住民・行政の「協働」をめぐる論争は、避けて通れない現状にあるように思われる。
しかし、「協働」についての学問的な論争や、現場の努力に寄与するような研究は十分に行なわれているとはいえず、学際的な交流もまだまだ行なわれていない。そこで、私たちは、「協働」が、これまで、どのような文脈で語られてきたのかを再検討するとともに、「協働」批判の論点がいかなるところにあるのか、そして、それを踏まえる中で、「協働」理論を構築することができるのか、また「協働」は可能なのかを検討していかねばならないであろう。そして、それは特定の学問分野にとどまらず、学際的な広がりを持つことが求められている。
私たちは、そうした視点から、「協働」政策について研究を重ねる場として、また具体的な実践につながるようなネットワークを形成する場として、ここに日本協働政策学会を設立することとした。
【発起人代表】 大西 隆(東京大学) 佐藤 竺(成蹊大学名誉教授) 新川達郎(同志社大学)
設立趣意書(PDF) |